2007/11/28

GOTHとは何か③~(GOTHの源流:グラム・ロック~ポジティヴ・パンク)

前回GOTHの源流について詳しく説明しました。
GOTHのルーツはサイケデリック・ロックにあると。
しかし、GOTHのルーツは必ずしも一つではありません。
さまざまな要素が絡み合ってGOTHと言うスタイルを形作っているのです。
その大きな柱の一つとなっているのがサイケ・ロック~ネオ・サイケの流れなのです。
そして、もう一つ、GOTHを形作る大きな柱があります。
それがグラム・ロックを源流とするポジティヴ・パンクです。
今回はGOTHのもう一つの源流を紹介したいと思います。
グラム・ロックについては皆さんもある程度はご存知かと思います。
デヴィッド・ボウイが有名ですよね。



↑の写真の人です。
奇抜な格好とド派手なメイクをして演劇的パフォーマンスを繰り広げるという。
これがグラムのスタイルでした。
実は音楽的には目新しいものは何もありません。
ですが、このスタイル、つまり男性がメイクをしてパフォーマンスをおこなうというのは、
当時としてはかなり画期的なことでした。
特に欧米人にとってはかなりの衝撃だったらしい。
皆さんもなんとなくわかるかと思うのですが、
欧米の文化って割と男女の際がはっきりしているというか、
日本だったら歌舞伎などがあるように男性が女装したりするというのは
割と許容範囲だったりするのですが、
欧米人にとっては男性がメイクをするというのは相当の変わり者か、
またはゲイとしてしか見られないという風潮があります。
そういうトランス・セクシャルなものを容易に受け入れられない文化があるようです。
もしかしたらキリスト教の影響があるのかもしれません。
神が創った男女の別は厳格でなければならないという思想が根底にあるのかもしれません。
また中世~近世以降の異端排斥運動によって、ヨーロッパの数多くの土着信仰が排斥されました。
そのなかにアンドロジーナス、つまり両性具有信仰というものがあったらしいのですが、
異端として排除されてしまったらしい。
そのようなことも関係があるのかもしれません。
話が少し逸れてしまいましたが、このグラムのスタイルは当時のフェミニズムの台頭とあいまって
女性だけではなく男性の意識改革にも大きな影響を与えました。
「男でもメイクしてもいいんだ!」と多くの欧米の男性に勇気を与えたわけです。
こうして「メイクをしてパフォーマンスをおこなう」というスタイルはGOTHにも受け継がれます。

それが80年代に登場するポジティヴ・パンクになるわけです。
ポジティヴ・パンクはパンクという名前がついている通り、パンクから派生したものです。
パンクが否定と破壊というネガティヴなイメージを持っていたことから、
もっと肯定的にとらえようという意味合いで「positive=ポジティヴ」とつけられたそうです。
きっかけは82年のフューチャー・フェスティヴァルにダンス・ソサエティ、サザン・デス・カルト、セックス・ギャング・チルドレンという3つのバンドが出演したことでした。
当時フューチャー・フェスティヴァルは新人の登竜門として非常に有名で、
この3バンドが特に評判が高かったことから、その名がついたそうです。
ちなみに日本の当時のマスコミはこの三つのバンドを『ポジティヴ・パンク御三家』と呼んでいたようです。

で、どんな音楽的特徴があるかというと、
1983年当時の『ミュージック・ライフ』には次のように記載されています。

「ポジティヴ・パンクのサウンドやイメージ的な特徴は次のものだ。
①パンクから受け継いだ激しいビート
②演劇やパフォーマンス的要素の強い立体的なステージと、メイクやファッションにも凝るというグラム・ロック的要素を含んだもの
③サイケデリック・ミュージックの影響による耽美的で内向的な精神性と実験的なサウンド・エフェクト」

前回お話した③の要素がここで登場します。
ここで二本の太い柱が一つに合流します。ですが、まだGOTHとは完全には言い切れません。
もう一つ大事な要素があります。
もちろん異教的な要素。これも大事です。
しかし、その異教的な要素を作り出した非常に重要な音楽的要素を見落としていると思います。
それは、当時new waveという大きな音楽的潮流の中で最も革新的で主要な要素であったアフリカン・ダブ、つまり異教的ビートの導入でした。
この要素をゴシック・バンドとして初めて導入したのは、
siouxsie & the banseesではないかと思います。
『hong kong garden』というアルバムで、中近東風のビートが取り入れられているのですが、
彼らの前にはこういった要素は見られません。
これはのちにbauhausを初めとするゴス・バンドにも取り入れられるようになったことからも分かります。
このダンス・ビートの導入を積極的に促したのが、
当時ロンドンにあったゴス・クラブ「batcave」の存在ではなかったでしょうか。
このクラブ、当時は非常に有名で、最先端のゴス・ピープルが訪れるクラブだったようです。
マスコミ関係者も非常に注目していて、
ゴス関係を調べたいときはそこのクラブに訪れると
最先端のゴス情報が得られるともっぱらの評判でした。
クラブで生まれたアンダーグラウンド・カルチャーは時代の最先端となりうるというのは時代の常です。
そして、ポジティヴ・パンクもクラブを中心として発展していった、といえるのではないか。
と思うのですが、いかがでしょうか。
では、ポジティヴ・パンクはどのようにGOTHへと変貌を遂げてゆくのでしょうか。
それはまた次のお題で。