2009/07/10

真の天才とは?~エフゲニー・プルシェンコを見る その3~


お待たせいたしました。 m(o´・ω・`o)mペコリン

今日はプルシェンコ特集第3弾へとまいりたいと思います。

が、ヤグディンとのことを書こうと思ったのですが、
いま彼の自伝を読み返しているところで、
まだ頭の中で整理がついておりません (;^ω^A

二人の関係はいろんな要素が複雑に絡み合っておりますので、
どういう風にまとめればよいか悩んでおります。

ヤグディンの視点から書けばいちばんわかりやすいのでしょうが、
それでは、あまりにも普通すぎるし、
ほかの人もいろいろと書いているのでどうかなと思ったり…

なので、今回は少し別の角度からプルシェンコを見ていければなと。

彼のジャンプの特性について分析したいと思ってます。

しかし、まだスケオタ3年半歴の超ド素人ですので、
専門的なことは指摘できません。
また、まちがいも多いかと思います。
そういうことも承知の上で、無謀な試みというか、
少し書いてみようかと。

実はわたくし、プルシェンコのジャンプが大好きなんです。
もし彼のどこが好きかと問われたら、
「ジャンプ」と答えるでしょう。

というわけで、このエントリを利用して、
プルシェンコのジャンプを分析しつつ、
スケーターにとってのジャンプとはなにかというものを
素人なりに考察してみたいと思います。
そして、いまのジャッジシステムのなにが問題なのかも考察していけたらと。

またまた長文になってしまいますが、ご了承くださいませ


まずプルシェンコのジャンプの特性について指摘する前に、
スケーターのジャンプには、概して二つのタイプに分けられると思います。

①高さと幅はあまりないものの、回転速度が異常に速いジャンプ
②高さと飛距離はすごいが、回転速度が遅いジャンプ

です。

まあ、スケートをそれなりに見ていたらなんとなくわかると思いますが。
では、①のジャンプは誰が当てはまるかというと、これはご存知の通り浅田真央選手です。
②のタイプはキム・ヨナ選手。
実はあまり女子で②のタイプのジャンプを飛べる人はいないとされているようです。
おそらく筋肉量のちがいとか身体能力の性差が大いに関係してくるのだろうと。

で、いま盛んに議論されているのが
なにをもって「美しい」ジャンプと考えるかですよね。

通常「美しい」ジャンプとされているのが②のタイプだといわれています。

なので、いまの採点制度では②のジャンプを飛ぶ人に対しては、
ものすごく加点がつきます。
男子ではパトリック・チャン選手ですよね。
彼は典型的な②タイプのジャンパーです。
彼のトリプルアクセルは本当に豪快。
あれほど美しい放物線を描くジャンプもないだろうと。

あと、トッド・エルドリッジ選手のジャンプも素晴らしいです。

ただですね、こういうタイプのジャンパーは、
確かに「質」という点では素晴らしいのですが、
難度の高いジャンプが飛べない傾向にあるようなんです。

トッド・エルドリッジ選手は何度も試みはしたものの、
結局ほとんど4回転は成功しませんでした。
パトリック・チャンも同じだと思います。
いま盛んに練習をしているようですが、
彼の4回転は成功しないでしょう。

なぜかというと、回転速度の遅いジャンプというのは
4回転を跳ぶのにあまり適しているジャンプではないように思うからです。

もし②のタイプでジャンプを飛ぶとするならば、
ものすごい飛距離を必要とします。
その飛距離を出すためには、相当な助走と体力を必要とするはずです。

飛距離を出すためには相当速いスピードで滑らなければならない。
そして、4回転を回転させるためにはものすごい滞空時間を必要とします。
重力に反発して空中にい続けなければならないわけですから、
その体力の消耗たるや、並大抵のものではないでしょう。

キム・ヨナ選手が最初の3F-3Tのコンビネーションをやったあと、
バテバテになってしまうのも、
このジャンプの特性と非常に深い関係があるように思うのです。

つまり②のタイプのジャンプは美しく見せることに適してはいるが、
体力を消耗しやすいという欠点もあるのではないかと。


では、①のタイプのジャンプはどうでしょうか。
回転速度が速いジャンプは、
基本的にはあまり「質の高い」ジャンプとみなされません。
それはなぜかというと、
①のタイプのジャンパーは総じてみな高さと幅がないからです。

典型的な選手は、カナダのケヴィン・レイノルズ選手でしょう。
彼は現時点では最高難度の4T-3T-3Loの大技を持っていますが、
ジャンプに高さがない。そして、幅もなく、回転速度の速さだけで回りきってしまう。
なので、いつもGOEが高くつかないのです。

しかし、実は4回転ジャンプの成功率の高い選手というのは
総じて①のタイプのジャンパーが多いような気がするのです。

わたしが知っているところでは、ティモシー・ゲーブル選手
①のタイプのジャンパーです。
ほとんど助走らしい助走もないまま、
4回転やトリプルアクセルを跳んだりします。
しかし、その一方で、彼のジャンプは姿勢が悪いとか
高さがないとか、質が低いとされてきました。

浅田選手もそうです。高さはあるものの、飛距離はないといつも批判されています。



いまのジャッジシステムでは、残念ながら、①のジャンプの評価は低い。

しかし、前述したとおり、
高難度のジャンプをより高い確率で飛べるのは
総じて、①のタイプのジャンパーなのです。

実は回転速度の速さというのが、
高難度ジャンプにはもっとも必要な要素であり、
これを習得できなければ、4回転(またはトリプルアクセル)
を跳ぶことはむずかしいのです。

また、このジャンプは体力をそれほど必要としなくてすみます。
回転速度が速いため、ほかの選手よりも滞空時間が短くなります。
そうすると、当然空中にいる時間も少なくてすみますから、
体力を使わなくてもすむわけで、
非常に省エネでかつ効率のよいジャンプを跳んでいるということになります。

そして、たぶん①のタイプのジャンプは、
非常に「先天的な」ものと密接に関係があるように思います。
要するに生まれながらにして
そのような体力や才能を持っているタイプに多いのではないかと。
浅田選手しかり、ゲーブル選手しかり。

ということになると、
こういうジャンプが習得できる人は選手の中でも
より限られた人になるわけですから、
当然現在ジャッジを務めている元スケーターの中で
そのような人はほとんど存在しないと思われます。
なので、当然先天的才能がないために、
そのようなジャンプの才能を見抜くことができない可能性が高い。
したがって、どうしても「教科書通り・教えられた通り」のジャンプに
目が行きがちになるのかと。

凡人が天才を見極められることはできないわけですしね。


で、プルシェンコなのですが、
彼も基本的には①のジャンパーです。
彼のジャンプは高いですが、
ほかの4回転ジャンパーから見ればそれほど高くはない。
そして、飛距離もない。
特に1998年から1999年のシニアデビューしたての頃はそうでした。
氷上に対して垂直に跳ぶジャンプが多く、
あまり飛距離がなかった。
おそらくその頃はあまり背も高くなく、体重もなかったので、
そのように跳んだほうが跳びやすかったのでしょう。




しかし、18歳を過ぎて成長期が止まり、肉体が完成するようになってくると、
ジャンプの質を変えて②のタイプのジャンプを取り入れるようになったのです。



4Tを跳ぶときの幅が広くなりました。
ですが、セカンドジャンプは以前垂直系なんですよね。
たぶん、そちらのほうが効率がよく、成功率も高くなるからでしょう。

プルシェンコの面白いところは、
①のジャンプを基本としつつも、
②のジャンプの特性もしっかり取り入れているということ。
これはフィギュアスケーターとしては理想のジャンプといえるでしょう。

だからこそ、プルシェンコはジャンプの「天才」でもあるといえるわけです。