2008/01/15

レヴィ、レヴィ、レヴィ!


法学部に在籍していながらも哲学マニアのわたくし。
最近読んでいるのが、こちらの本。
数日前、大学生協に立ち寄ったときに衝動的に買ってしまったのですが、
読んでみたらやっぱり面白い。

クロード・レヴィ=ストロースは、わたしが最も敬愛する思想家で、
ずっと以前から紹介したいと思っていたんですが、
なんとなく後回しになってしまってました。
哲学という難解なカテゴリということもあり、
書いてもあまり理解してもらえないんではないかと思って
書くのを思いとどまっていたんですが、
彼の著書を久々に読んで、哲学の面白さをみなさんに知ってもらいたいと思い、
筆をとることにしました。

クロード・レヴィ=ストロースは、1908年生まれの現在99歳(存命中!)のフランスの文化人類学者で、
哲学の世界では知らない者はいない超有名人。『構造主義』というジャンルを確立したヒトです。
よく哲学の入門書なんかを読んでいると、
ポスト構造主義とかポスト・モダニズムという言葉が頻繁に登場すると思うのですが、
レヴィ=ストロースがそのポスト・モダニズムの扉を開けた張本人であり、
彼なくしては今の現代哲学の潮流はなかったと思います。
では、彼の提唱した『構造主義』とは何でしょうか?
その前に近代哲学の流れを少しかいつまんで説明しましょう。
そもそもこの流れを分からないと『構造主義』以降の現代哲学の流れが
まったく分からなくなってしまうので。

近代哲学というのは、18世紀以降登場した流れで、一種の認識論といいましょうか。
かなり荒っぽくいうと、人間ってどうやって物を認識するの? 
そして、それがどうして正しいと分かるの?
ということを考えたと思っていただければいいかと思います。
そして、その認識が正しいということを支えているのが『理性』です。
ですが、時代が新しくなってくると認識をすることよりも
その認識をする主体そのものに関心が向けられます。
それが『存在論』です。ハイデガーやサルトルの登場です。
サルトルは人間をアンガージュマンと捉え、積極的に政治運動に関わることを提唱するんですが、
実は彼、マルクス主義の影響を強く受けており、
マルクスが提唱する資本主義→社会主義→共産主義へと発展してゆくように、
人類の歴史もまた弁証論的に発展すると信じてました。
そして、その発展のために必要なのがアンガージュ(政治運動)なのだと。
しかし、そのアンガージュというのがなかなかの曲者でして、
サルトルはその歴史的発展をになう中心的存在はヨーロッパ人(特にフランス人)と考えていたんですね。
要するにヨーロッパ人がアジア人やアフリカ人を牽引して、
歴史が発展するというヨーロッパ中心主義的な考えが潜んでいたわけです。
ちょっと意外ですよね。サルトルってなんかすごーく進歩的なヒトってイメージがあるんですが、
けっこう保守的というか。まあ、サルトルがフランス人ということもあるんでしょうけれども。
とにかくヨーロッパ中心主義を捨てることができなかった。

ですが、そんなサルトルのヨーロッパ中心主義にはっきりと「否!」と答える人物が登場します。
それがこのレヴィ=ストロースです。
彼のサルトル批判によって、フランス実存主義は終わりを告げ、構造主義の時代へと入ってゆきます。
レヴィは「ヨーロッパ人が牽引して歴史が発展する」なんてありえないとサルトルを批判します。
そもそもヨーロッパが文明的に進歩していて、他の社会が未開なんて誰が言ったんだ
自分達ヨーロッパ人が勝手にそう思ってるだけじゃないかと。
これはヨーロッパの思想界に衝撃を与えました。
当然ですよね。だってヨーロッパが文明的に一番進歩しているということを疑いもしなかったんですから。
逆にそういう優越意識があったからこそ、ヨーロッパ人は世界で大きな顔をしてられたわけで。

ですが、レヴィはその意識そのものに疑問を投げかけます。
ヨーロッパ人が未開だと思っている社会は実は未開でもなんでもない。
未開人はヨーロッパ人と同じレベルの知性を持っており、考え方が違うに過ぎない。
例えば社会を労働者階級、中産階級、上流階級と分類しますが、
実は未開社会にも分類は存在します。ただし方法が若干異なります。
未開社会は自分達の社会を「トナカイ」「犬」「アザラシ」という風に分類します。
自分達の部族の神話からその名前を利用して分類するのです。
方法は違いますが、「分類する」ということでは一緒なんです。
なぜならヒトは「分類せずにはいられない」存在だから。違うのは方法だけで、本質は一緒。

またレヴィはヨーロッパ人が文明的に発展したのは「熱い社会」を選択したからだともいいます。
「熱い社会」とは何かというと「競争のある社会」だと思ってください。
この「競争」があるからこそ、ヨーロッパが発展したのだと。
しかし、この社会は実は多くの欠点が含まれています。
競争はいいもののように見えて実はヒトを無用な争いに駆り立て、疲弊させてしまいます。
未開社会が「熱い社会」へ移行しないのは、
移行できない(つまりそうするだけの知恵・理性がない)のではなく、あえて移行しないだけで
「熱い社会」になることにより生じる「競争」を起こさないように発展を自ら拒絶しているためだ。
未開人は「冷たい社会」をあえて選択したのだと主張します。

つまり欧米人が考えていた自分達には知恵や理性が存在するが、
未開人には知恵や理性が存在しないという考え方に、はっきりと否を突きつけ、
世界はもっと相対的で多様なのだと今でいう「文化相対主義」をヨーロッパで最初に唱えたのが
このレヴィ=ストロースなんです。

スゴイですよね。ヨーロッパ人である彼が自らが自分の文明を絶対的なものではないと唱える勇気。
もちろんレヴィがユダヤ人ということもあるんですが、
それでも、ヨーロッパ中心主義を批判してみせるというのは並大抵なことではない。
もちろん、これを端緒に以降ヨーロッパの思想界ではヨーロッパ自己批判的な思想がたくさん登場します。
それがポスト・モダニズムです。
ヨーロッパの形而上学を内側から解体していこうとするジャック・デリダとか、リオタール等は
すべてレヴィの構造主義から始まっているといっていい。
もちろんポスト・モダニズムの哲学者はレヴィの構造主義を批判することによって始まるのですが
ヨーロッパがもはや世界の中心ではないという考え方は両者は一致していて、
明らかにレヴィの思想が受け継がれている証拠でもあります。

わたしはレヴィの著書を読んだとき、
頭をぶん殴られたような衝撃を受けたというか、とにかくすごかったです。
わたしのなかにあった欧米文化へのコンプレックスみたいなものが粉々に砕け散りましたから。
自分の文化が欧米文化よりも劣っていて、悪いものではないということ。
もっと相対的に世界を見ていかなければならないこと。すごーく認識が変わると思います。

この↑の写真の本は、そんなレヴィの思想が分かりやすく記されています。
レヴィが大学かどこかで講演したものが収録されているんですが、
とても読みやすく、哲学書を読んだことのない人でも読めるかと思います。
この機会に、一読してみては?

追記
レヴィについての思想を分かりやすく記されているサイトを見つけました。
こちらで見ることができます。