2009/12/07

明暗を分けた二人の日本人選手 GPF 2009 男子 FP 考察 その1



《-五輪に4回転は必要か?- モロゾフの戦略を考察する》

お次はFPです。

といっても、ここでは二人の日本人選手のプログラムについて考察していきましょう。
まずは織田選手から。



まずは織田選手、五輪内定
おめでとう!(*´∀`)o∠☆゚+。*゚PAN!!★゚+。*゚ございます。
これで織田君も一安心ですよね。
4年前のトリノの雪辱を果たしたのではないでしょうか。

FPのほうは、残念ながら後半の2つのアクセルでミスが出てしまいましたが、
それ以外のジャンプはきちんと決めて、見事総合2位。
グランプリファイナルの表彰台を見事確保しました。

今季の織田選手は本当にすごいというか、
ジャッジの評価もうなぎのぼりで、TESもPCSも高いですよね。
それに、もともと織田選手はジャンプの質がとても高い。
織田のジャンプは「落ちてくる」のではなく「おりてくる」と評されるように、
まるで羽のように舞い上がって、ふわっと降りてくる。
おそらくひざが柔らかいのでしょうね。
着氷するときの衝撃がとても小さいのでしょう。
回転不足もないし、見ていて本当に美しいです。

その「質の高さ」はきちんとプロトコルにも反映されており、
3A-3Tのコンビネーションジャンプには2点の加点がついていました。

確かにインフレ気味の大会ではありましたが
(もしかしたら地元上げもあるのかもしれませんが)、
それでも、これだけ高く評価されているのはすごいと思います。
バンクーバー五輪に向けての調整は万端のようです。

そして、織田選手のプログラムを見て思うのは、
ジャッジは、ジャンプの難易度を重視するのではなく「質」を重視しているということ。

この傾向はオリンピックでも変わらないと思います。

今回のGPFも4回転を飛ばない選手が表彰台を占めました。
4回転を飛ばない男子なんて・・・と批判もありますが、
逆に、それだけ4回転はリスクも大きいということです。

よほど確実に飛べなければ、容赦ないダウングレードにさらされ、
それのみか、PCSや加点という部分でも大きく下げられてしまう。

今シーズン、織田選手・安藤選手が大活躍していますが、
なぜこの二人の選手が強くなったのかというと、
やはりコーチのモロゾフによるところが大きいと思います。

特に、二人に大技を捨てるよう説得したことはでかい。
二人とも4回転にこだわるあまり、ほかの要素やジャンプがおろそかになり、
そのために点数を落としていることがほとんどでした。

しかし、モロゾフはいまの採点システムの特徴をしっかりと理解し、
もはや大技狙いでは五輪優勝は無理だということを悟ったのでしょう。
「4回転にこだわるなら美姫には教えない」と強い言葉で
大技をあきらめさせ、
逆により確実な、ダウングレードの少ないジャンプを飛ばせた。

その結果、二人のミスは激減し、代わりにPCSやTESが上がった。
安藤選手はキム選手との対比があるので比較的下げられてますが、
それでも、昨シーズンに比べたらかなり上がっていると思います。

モロゾフが戦略家だと思うのは、
しっかりと新採点システムというものを理解し、分析していることです。

確かにいまの採点システムはおかしなことばかりです。
スポーツというものは人間の限界に挑むもの。
本来ならば、フィギュアスケートもそうあるべきなのですが、
採点システムが変わったせいで、
以前の競技とは似ても似つかなくなりました。

いまのフィギュアスケートは
①大技に挑んではいけない。
②無難な技を確実に決める=質を高める。
③つなぎを多く入れなければいけない。

と、まさに時代に逆行するようなものとなっております。

それが正しいかどうかは別としても、
オリンピックで勝つためには、ルールにのっとらなければならない。
ルールを無視すればどんなにすばらしい演技をしても優勝はできなくなります。

浅田真央選手のスランプも実はここにあるかと思います。
大技の固執するあまり、本来ならば確実にこなさなければならない
スピン・スパイラル等の要素を落としてしまうのです。
その結果、キム選手のような無難な技しかできない選手が一人勝ちのように勝ってしまう。
キム選手が浅田選手よりも強いわけではありません。
キム選手のほうがよりルールを「理解し」、
そのルールで確実に勝つためのプログラムを滑っているだけです。

そして、モロゾフはおそらくカナダの選手たちのプログラムを研究しながら、
安藤・織田両選手のプログラムを作っている。

二人の今シーズンのプログラムの特徴的なところは
やたらと止まっているところが多いところ。
よく批判されますが、キム選手のプログラムもそうですよね。
止まっているところが多い。
しかし、それは別に点数を下げることにはならない。
むしろ演技点を上げさえする。
モロゾフはこの点に注目して、よりポージングが多いプログラムを作っている。
実はこのポージングをより多く入れるというのは
選手にとっても利点があり、プログラムの途中で休むことができます。
そのため、次のジャンプや要素を行うときの失敗が少なくなる。
安藤・織田両選手が今シーズンあまり失敗が見られないのも
このポージングが多いのもひとつの要因かと思います。

そして、何よりも彼らが今季強いのは、
飛べるジャンプしか飛んでいないこと。
安藤選手は今季3-3のコンビネーションを一度も飛んでません。
飛べばダウングレードをされることが分かっているからです。
2A-3Tのコンビネーションさえも、実際の試合では2A-2Tに下げて飛んでいます。

織田選手も同様です。
今季は4回転を一度も入れていません。
そのため、以前のようなジャンプミスが少なくなりました。
やはり最初に4回転を失敗してしまうと、プレッシャーがかかるのか、
ほかのジャンプを失敗しがちになる。
選手にはそういう傾向が多いです。
しかし、モロゾフはあえて4回転を回避させることで、
ほかのジャンプを確実に飛べるようにさせた。
もともとジャンプの質の高いことで知られている織田選手のこと、
飛べるジャンプを飛べば確実に点数は取れるのです。
事実、プロトコルを見ても織田選手のジャンプの質が
いかにジャッジに高く評価されているのかが分かります。
2点もの加点があれだけたくさん付いているのは、
今季は織田選手ぐらいじゃないでしょうか。

それに、モロゾフは元アイスダンス選手のコーチですから、
「つなぎ」を入れるのはお手の物です。
なので、点数につながりやすいつなぎをきちんと入れて
確実に点数を上げている。

モロゾフの戦略が見事に成功したシーズンだと思います。

《つづく》