2010/02/28

ロシアVSカナダ 1990年以降の男子シングルの歴史から探る②


《①の続き》

カナダ人はロシアが憎くて憎くてたまらない。

カナダ人が誇りとする北米特有のなめらかなスケーティングがまったく評価されない。
逆に、ロシア人のバレエ風味の振付が『芸術的だ』と高く評価される。
大してスケーティング技術があるわけでもないのに。
(決してそんなことはないのですが、コンパルとかもやっているだろうに。
でもカナダ人はそう思っている節がある)

そして、彼らの少しでも勝ろうと4回転ジャンプという高い技術を身につけたが、
その技術力を以ってしても、
『芸術性が高くない』といわれて、認めてもらえない。

これもカナダ人のかってな思い込みだと思うんですよね。
実際ロシア人は、80年代にファデェーエフが
非公式ながら4回転を飛んでますし、
クワドのメソッドは、ロシアのほうが確立している。
特に、プルシェンコやヤグディンの指導をしたアレクセイ・ミーシンは
4回転を飛ばせることにかけては随一の腕を持つとされ、

彼のキャンプの参加すると、
4回転が跳べるようになるらしいですから。
トリノで4-3-2を成功させたランビエールも
ミーシン・キャンプに参加した一人でした。

なんだか面白いですよね。
これって、いまの《4回転論争》と一緒じゃないです?

昔はロシアとカナダは逆を言っていた。
なのに、いまになってなぜ? なぜカナダは『芸術性』にこだわるのか。

それよりも、話を2000年代に戻して、
もう少し男子のシングルの歴史をたどっていきましょう。

1998年の長野以降2004年辺りまでカナダは『冬の時代』を迎えます。
4回転を跳べる優秀なスケーターが現れなかったからです。

しかし、それ以上に「怪物」がこの時代に現れます。
またしても、ロシアに。ヤグプル2強時代の到来です。
ヤグディンとプルシェンコは、ロシアが作り出した最高の逸材です。
そして、ソ連スポーツエリート育成システムで育った最後の世代でもありました。
二人とも4回転ジャンプを持ち、しかも、高い芸術性を持っている。
『芸術性』と『高い技術』の二つを両立させた選手にかなうはずもない。

思えば、このときが男子シングルの最盛期だったのだなと思います。
たぶんこの先、いろんな選手が現れても
ルールが改定されて、4回転ジャンプの比重が高まっても、
この時代の人たちには勝てないような気がする。
ヤグプル以外の人たちじゃなくても、みんなすごかったもん。
ゲーブルや本田武史や、中国の選手たち。みなすごくハイレベルな人たちでした。

ソルトレークが、北米開催のOPであったにもかかわらず、
バンクーバーのような茶番が起こらなかったのは、
ひとえにカナダ人の有力選手がいなかったことと、
どんなに背伸びをしても、全盛期のヤグプルには勝てなかったということです。
この二人では、どんな政治力も八百長もきかない。
そういう点では、若干浅田真央は弱いのかなと思います。
彼女がもう少し圧倒的な強さがあれば、たぶん付け入る隙を与えられず、
このような悲劇的な結果にはならなかったはず。
でも、それ以外にもさまざまな要因があるし、彼女のせいではないですから。

話がずれてしまいましたが、
ソルトレークはいちおうストイコが出ましたが、
もうストイコは全盛期をとうにすぎ、
それどころか、内転筋をいためて歩くことさえままならなかった。

カナダはもうメダルは取れないのではないか。
そう彼らも絶望していたはず。
しかし、ここで思わぬ転機が訪れます。

例のペアの採点疑惑です。
実は、私、男子シングルはトリノから見出したので、
この当時の事情を本でしか読んだことがないのです。
だから、この時のスキャンダルがいかにすごいものだったのかを
リアルタイムでは知らない。
ですが、本を読む限りでは、ジャッジの買収やプレッシャー云々というよりは、
単なるアメリカのヒステリーに過ぎなかったという感じがします。

しかし、何よりも重要なのは、
これによって
100年近く続いていた『採点制度』が大きく見直されるようになったことです。

カナダはこれに着目した。
いまはまだダメだけれども、次のバンクーバーまでに
自分たちに有利なようにもっていけば・・・・。

残念ながら、カナダは有力な男子選手を育成することをある意味失敗している。

ソルトレーク辺りから、バトルが有力な選手として出てきますが、
いかんせん、彼は四回転を飛べない。
これでは当然プルシェンコには太刀打ちできない。
しかも、プルシェンコはジャンプのみならず、
ステップ、スピン、スパイラルと全てが完璧。
それに加え、高い芸術性も備えている。

でも・・・、バトルに有利な採点システムに変えれば、
バトルを金メダリストにすることはできないけれども、台に上げることはできる。
トリノはプルシェンコに取らせて、とりあえずバトルを台に乗せ、
次の母国開催の、バンクーバーで金メダルにすればよい。
たぶんこういう思惑が働いたんでしょうね。

新採点システムはジャンプだけではなく、
ステップやスピンも高く評価していこうと、
テクニカル・ジャッジが細かくレベルを定めて、
判定していくシステムになっています。
このシステムでは、ジャンプが多少飛べなくても、
他の要素でレベルを満たしていれば、高得点も不可能ではない。

幸い、旧採点システムによって引き起こされたスキャンダルにより、
国籍を表示しないということになりましたから、
よりジャッジの恣意性は増したことになり、点数の操作も可能となりました。

こうして少しずつではありますが、バンクーバーに備えて
カナダはルールを変えていったといえます。

そして、例の『つなぎ』のことなのですが、
これこそ、まさにカナダのコンプレックスそのものだと思ってます。
ロシアは高い『芸術性』を持っている。
そして、90年代その芸術性に阻まれてカナダはメダルを取れなかった。
しかし、カナダ人にはカナダ人のプライドがある。
自分たちのスケーティングはすばらしいと感じており、
ロシア人となんら引けを取ることはない。
それどころか、自分たちのほうが優れていると思っている。
ロシアの『芸術性』などただのバレエ崩れだ
自分たちのスケーティングこそが、『芸術』だ。

これが全てなのかなと。

「つなぎ」=カナダのプライド 『芸術性』。

少なくともこのバンクーバーで私はそれを強く感じました。

トリノ以降プルシェンコが長い休養期間に入ると、
男子シングルの様相が徐々に変わっていきます。
特にバトルが2008年に世界選手権で優勝して以降、
しだいにジャンプが軽視されるようになり、
スピンやステップの評価が厳密化されます。
レベル4を取らなくては点数にならなくなった。
さらには、つなぎが満載されたプログラムが重視され、
よりジャンプは難度の高いものから『質』の高いものへと変化していった。

たぶんこれはカナダの有力選手が
バトルからチャンに切り替わったこととも深く関係していると思います。
エッジ使いの上手いチャンに有利なルールへと変わっていった。

この時のバトルの心境は複雑なものだったと推察します。
バトルは、4回転擁護派には叩かれまくってますが、
スケーターとしては悪いスケーターではないし、
実際彼のスケーティングやスピンはすばらしい。
私は彼のスケートが好きだし、たとえジャンプが苦手でも、
彼のことを4回転がと飛べないからといって非難はできない。
彼には、なんというか、スケーティングを
もっと評価されてもいいといえる説得力があった。
つまり、それなりの実力があったということです。

そして、何よりも彼はチャンと違ってすごく性格がよかった。
絶対に他人を貶めるような発言はしなかった。
彼はトリノ五輪で銅メダルに終わったとき、
「去年の世界選手権では銀メダルでしたが、
今回の五輪は銅に終わってどう感じたか」
と記者会見で、インタヴューされたとき、
彼は、「プルシェンコのいない大会で銀を取るより、
彼のいるオリンピックで銅を取れたことのほうが
ずっとすばらしいことだ」と発言していました。

人のよいバトルは、たぶんカナダの黒い意図についていけなかったのでしょう。
ちょうど、チャンがカナダナショナルを優勝したのを気にすっぱりと引退してしまいます。
引退後の彼の充実を見ると、やはりやめてよかったのかなと思います。
現役以上に生き生きしてますもの、彼。

それにカナダスケ連も聡明なバトルよりも、
若くて、刷り込みやすいチャンに切り替えたほうがずっとよかった。

カナダは、オリンピックシーズンを控えた前年、
チャンを世界選手権の台に載せようと奔走します。

《続き》

ロシアVSカナダ 1990年以降の男子シングルの歴史から探る①


お昼過ぎに更新しようと思っていたんですが、
予想異常に具合が悪くて夕方まで寝ていました。

すいません。m(o´・ω・`o)mペコリン

さっそくですが、いろいろと更新していきたいと思います。

ここでの大きなテーマは『なぜ浅田真央は負けたのか』ことなのですが、
その前に、1990年以降の男子シングルの歴史について触れたいと思います。
これは今回のOP女子シングルにも関係してくることなので。

あと、この見解はあくまで個人的なものです。
なので間違いも多いかと思いますのであしからず。

《全てはブライアン・オーサーから始まった》

今回のバンクーバーのフィギュアはおかしなことだらけでした。
おそらくまともな採点をされたのはペアぐらい。
それ以外ははっきりいってクソといっていいほどの、恣意的採点の嵐。
特に私が感じたのは、

カナダ人の、『怨念』といっていいほどのロシア人に対する嫌悪です。

いったいこれはなんなのか。その原因はどこにあるのか。
私の疑問はここから始まりました。

おそらく一番初めは、カルガリー五輪だったと思います。

この地元開催の五輪で、
カナダ代表のブライアン・オーサーが銀メダルに終わったことは
カナダ人たちを痛く失望させました。

オーサーは、結局2大会連続で金を逃してしまったのです。

オーサーのことについては後に詳しく書こうと思いますが、
この人もある意味不幸というか、
でも、いろいろなソースを見ていると、
この人、世界選手権で一度も優勝したことがないし、
こういう、ある意味実績のない人が、
五輪で優勝できなくてもしかたがないかとも思うんですけれどもねえ。

しかし、カナダ人としては納得いかなかったのでしょう。

カナダ人としてなんとしてもメダルを取りたい。
いつもあと一歩でメダルを取り逃がしてしまう。

しかし、まだこの当時、カナダには優秀な人材はたくさんいました。
カート・ブラウニング、エルヴィス・ストイコ
金メダル候補はいくらでもいたのです。
特に、ブラウニングに関してはもうすでに世界選手権三連覇をなしていた。

なので、次のOPでは絶対に金メダルを取れると思っていた。

しかし、またしてもカナダは金メダルを取り逃がすこととなります。
それ以上に、カナダに大きな壁となって立ちふさがる国が登場した。

その国はロシア。
ロシアは実は男子シングルではあまり実績がないんですよね。
ここ何年か、有力な選手が輩出しているので、すごく強いというイメージがありますが、
それは1990年以降の話で、それ以前はアメリカや北欧の選手が強かった。
しかし、ロシアはペアに関しては42年間OPで金メダルを保持し続けてきた国ですし、
また当時は社会主義国でしたから、国威発揚のためのスポーツ振興政策がさかんだった。
全国から選りすぐりの逸材を選抜して、そのなかからさらに優秀な人材を
OP代表にする。そのシステムを男子にも採用すればすぐにメダルは取れます。

1992年にソ連は崩壊しましたが、
同時に、80年代にスポーツ振興政策によって育成された選手たちは
ちょうどOPで闘える年齢となり、金メダル獲得の原動力となっていったのです。

当然、カナダはこのロシアには勝てません。
お金のかけ方がぜんぜんちがいます。ましてや、向こうは社会主義国。
中国を見れば分かりますが、社会主義国のスポーツエリートは
並みの人たちではないですから。
たとえブラウニングであっても勝つことはできなかったでしょう。

といっても、ブラウニングという人は不思議な人で、なぜかOPに縁がなかった。
結局彼はOPは無冠のままで終わります。
いるんですよね、こういう人。なぜかOPでは勝てない。
いまの選手でいったら、ブライアン・ジュベールか。
ジュベも本当に不幸な人です。

でも、ペトレンコは確かにすばらしいスケーターでしたが、
実は、彼が金メダルを取ったとき、
まだ世界選手権で金メダルをとっていなかった選手だったのです。
(すいません。ご指摘がありましたが、文章が下手なもので。
ペトレンコは金メダルは取っていませんが、
世界選手権でメダルは取っています。
金メダルを取っていなかったと書きたかったのですが、
変な文章になってしまって誤解を与えました。
訂正します)
この何の実績もない選手にメダルを奪われたことは
カナダにとって何よりも痛かった。

その悲劇は次のオリンピックでも続きます。
次のリレハンメル。エルヴィス・ストイコが惜しくも銀。
ロシアのウルマノフに敗れてしまいます。
ちょっと、このあたりの事情がよく分からないのですが、
どうもこのウルマノフの金メダルはけっこう物議をかもしたようです。
いろいろ調べたのですが、見つからなくて。
ストイコは4回転を入れたのに、ウルが3Aだけなのに
演技力があるとか、優雅だとかということで金になった?

しかし、ストイコをもってしても金メダルが取れない。
たぶんこの当時、技術という点ではストイコが上だったのでしょう。
ですが、欧州開催のOPということもあって
ストイコのようなやや武骨な感じのスケーターは歓迎されなかったようです。
それよりも、バレエテイストのウルマノフのようなスケーターが評価された。

この当時の動画を見ましたが、
本当に両者、すばらしく、甲乙つけがたい演技でした。
そして、ひじょうに対照的でもあった。
ストイコはひじょうに男性的で、パワフル。
ウル様はまるで王子のよう。
あの長身からはとても想像もつかないほどの
柔らかなスケーティングをするんですよね。
まあ、女性から見たら圧倒的にウル様の勝利でしょうが。

しかし、ちょっと面白い気もします。
この当時、カナダは技術を、ロシアは芸術を売りにしていたということです。
逆に言えば、カナダ人はエレガントではないという理由であまり評価されなかった。
これが、いまのカナダ『つなぎ』至高主義へと
つながっていくんじゃないかなあと思います。
またあとでふれます。

とにかくカナダは不幸の連続でした。
長野でもストイコはやっぱり銀。
しかも、4回転を入れていないという批判を受けたためか、
ロシアはきっちりと4回転を入れれる選手を送り込んできた。
クーリックは4回転も入れ、なおかつ芸術的にもすばらしかった。

ロシアがすごいところは、こういうところだと思います。
中国もそうですが、きちんと実力を兼ねそろえた人間をそろえる。
その上で、スポーツでの政治力を確保する。
この辺が、カナダはまだ甘い。
実力のない選手を政治力で無理やり上げてしまう。
これは逆に、反感を持たれかねない。
でも、まあ、カナダ人はそれでも関係ないんでしょうね。
ずるしてでも勝ちは勝ち。
何が悪いと面の厚い顔をできるんでしょうな。
どっかの国の人たちと一緒だわwww

その点、ロシアや中国はこの辺はしたたかというか、抜かりないというか、
確かに内部ではものすごい政治力を発揮して、
フィギュアに関していえば、
たぶんソ連は旧東欧系のジャッジは全てソ連よりの判定をしていたと思いますが、
それでも、観衆がそれなりに納得していたのは
(体操なんかそうだと思うんですが)
そのような高い点数をもらうに値する実力の選手を
きちんと育成してきたということなんです。
だから、多少後ろ暗いことがあっても
みなそれほど不快にならずに暗黙の了解ですんだのです。

とにかく、90年代はカナダにとっての暗黒の時代でした。
男子シングルで悲願の金メダルをと望みながら、
金メダルに最も近い才能を輩出しながら、
結局、ロシアという巨大な壁に阻まれ、一度も実現しなかった。
このことが後のバンクーバーへの意趣返しにつながってくるんだろうと思います。

《続く》

すいません、またお昼以降に



今日更新しようと思っていたんですが、さすがに眠気が・・・
一晩寝ていないつけが回ってきたようです。

ちょっとだけ今日の感想を書いて、詳しくは明日。

今日、改めてプルのSPと浅田選手の『鐘』をみました。


まず、プルから。
改めてこの人は只者ではないんだなと思いました。
かといって、たやすく『天才』と呼んでいいものか。
彼はもうすでに別の領域に入ってしまっている。
確かに本人比では不調でしたが、
他の選手比では、問題にならないほど圧倒的でした。
なんていうんでしょうかね、
氷上を何気なく滑っているだけでも、異彩を放つというか。
あのオーラはなんなのでしょう。

そして、滑り出したときのあの空気を切り裂くような冷たさ。
正確無比な精密機械を仕組んだようなジャンプ。
すべてがネ申レベル。
まだまだ他の選手が追いつくようなレベルではないと感じました。
だからこそ、アメリカはプルを潰したんだと思いました。
彼らは心底プルシェンコを恐れている。
『畏怖』という言葉がぴったり。
口先だけのちんけなスケーターには一生出せないオーラ。
身の程を知れってんだ。


次に、われらが浅田真央
フリーの例のミスのあと、怖くて見れなかったのですが、
今日改めて見て、すごいプログラムだなと思いました。
あのジャンプのすっぽ抜けは惜しいですが、
それ以外は他の大会よりもずっとよかったです。
特に圧巻だったのは、あのスパイラルです。
あれを見たときもうすでに滂沱している自分がいました。
はっきりいってあれはもう・・・言葉にはなりません。

『鐘』の分析についてはあとで詳しくやりますが、
とにかく、あそこのスパイラルでの浅田選手は
もう『かわいいだけの』真央ちゃんではなかった。
まるで『鬼神』そのものでした。
この子はプル系の全身で美を表現するタイプかと思っていましたが、
プルともヤグともちがう、まさに『憑依系』という言葉がまさにぴったり。
自分のスタイルを確立しつつあると思いますね。
あともう少しアピール力がつけば完璧かな。
『鐘』は来シーズンもやって欲しいというのが私の本音です。
あれはやればやるほど素晴らしくなる。
浅田真央の中にある内なる感情を開放させるにはもってこいのプログラムです。
エキシでもいいからやって欲しい。


コメントのレスは明日お返しします。
すいません、

m(o´・ω・`o)mペコリン

とりあえず、今日は休みます。